ちょっと短いお話集
 それに、美しい時はそんなに長くはないもの、だから良いでしょう? 少しくらい自信を持っても。

 あの人は大人になってからも毎日のように来てくれていた。


 でも、私はあの人を見るだけで精一杯だった。


 どうしても、勇気が出てこない。


 それにしても、あの人は不思議だ、いつも人ごみの中を歩いてくるんだけれど、周りの人はまるで気がつかない。


 透き通っているみたい。


 しかも、あの人が通り過ぎた後、周りの人たちは浮かれているようだ。


 そんな風に思うのは、私が彼のことを好きなせいだろうか。

 ある日、私は今日こそ、彼に声を掛けようと心に決めていた。


 少々、遅すぎるような気もするけれど、これまで本当に私には勇気がなかったのだ。


 でも、夜の帳が教えてくれた。


 私にはもうあまり時間が残っていない事を。


 だから、勇気を出して声を掛ける。


 このまま後悔したまま、消えてしまうのは、嫌だもの。
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