ちょっと短いお話集
 あの人が来た。ゆっくりと歩いてくる。


 忍び足で歩いていた時と違って、最近はいつも躍っているみたいに見える。



 きっと上機嫌だ。上手く行けば良いな。


 「あの……」


 思い切って、声を出してみる。


 ああ、でもだめだ。


 緊張のせいか声がかすれて、上手く言葉にならない。


 彼は、私に気づいてはくれないのだろうか?


 しばらく、満足げにこちらを見た後、いつものように、もと来た道を戻ろうとし始めた。


 ああ、待って、行かないで。


 私は必死に呼びとめようとした。


 もう、私には時間が残されていない。


 何故だか知らないが、それは痛いくらい私には良く分かっていた。


 私の体は、きっと長くは持たない。


 今しかないんだ。今しか。

 まって、お願い。


 あなたの笑顔がもう一度見たい。


 声が聞きたい。


 だから、おねがい、かみさま。


 勇気をください。
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