ちょっと短いお話集
 また、風がなった。


 でも今度の風は私に味方をしてくれたみたい。


 私の体は、心の軌跡をたどるように、彼の元に向う。

 とどいて。


 私の体が、彼の肩に触れた。


 だが、悲しい事にそこが私の限界だった。


 私の体は彼の肩をかすり、地面に落ちた。


 もう限界だ。私の力では動く事は出来ない。


 でも、その時、奇跡が起きた。ついに彼が私に気づいてくれたのだ。


「あれ、君は」


 そう言いながら、私を優しくて、暖かい手で拾い上げる。


「私、私は (ああ、よかった、まだ、声は出る) あなたと、あなたと、踊りたくて」


 なぜか、いつも夢見ていた時のように、すらすらと喋れた。


「僕と、ああ、そうか、それはうれしいな」

 そう言うと彼は、私に息を吹きかけた。


 その瞬間、わたしは彼と踊った。


 私はヒラヒラと、彼の周りを回り。

 彼は、私に魔法を与え、ステップを踏んだ。


 私は、彼を見つめ、彼は私を見つめてくれた。


 永遠のようにさえ感じる、優しい時間。



 でも、いつだって、なんにだって、終わりは来る。


 さみしいことに。


「わたしね、ずっと、あなたを見ていたわ、生まれたときから、ずっとよ」


 私は躍りながら言った。


「ずっと、あなたのことが好きだったの」


「うん、ありがとう、僕も君が好きだよ」


 寂しげな声で、彼が返してくれる。


「本当に」


「うん、僕と踊ってくれたのは、実は君が初めてだもの」


 寂しそうに彼が笑った。


 ああ、やっぱり、この人は、寂しかったのだ。私はきっと彼の寂しさに惹かれたのだ。


「いまは私がいるわ、寂しくなんてないでしょう」


 私は言った。


「でも、また、君もいってしまうよ」


 わかっている、彼が言うまでも無く、私には分かっていた。彼の魔法でも、命を延ばすことは出来ない。


 すぐに、夢は終わってしまう。
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