ターニングポイント
仏間に入ると、陶子さんは仏壇の前に正座した。


俺は部屋の隅に立って、所在なげに陶子さんの後ろ姿を見ていた。



陶子さんは置いてあったマッチで、仏壇のろうそくに火をつけた。

ろうそくでつけた線香の火を手であおいで消し、一筋煙を上らせるそれを香炉に立てた。

そして鈴(りん)を2回打って、数珠をかけた手を合わせ、頭を傾けた。



気持ちをしんとさせる線香の香りの漂う中、俺は陶子さんの一連の動作の美しさに目を奪われていた。


ひとしきり祈りを捧げたあと、顔を上げた陶子さんは仏壇前に置いた母の写真を見ているようだった。


そして、そのまま動かなくなった。


訝しく思い、少し体を傾けて陶子さんの顔を覗いたが、すぐに元の姿勢に戻った。


泣いていた。


陶子さんは母の写真を見つめたまま、流れる涙を拭おうともせずに泣いていた。




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