ターニングポイント
話を聞いているうちに、思い出した。


たしかにそんなことがあった。


「瑞江さんが言うにはね、涼くんも私も、周りに期待される自分を演じようとして、たいていはそれがうまくできてしまう優等生なんですって。

でも、期待される自分と、本来自らが望んだ自分のありように矛盾が生じたときに、ストレスを溜め込んでしまいやすいから心配だって。

私ね、瑞枝さんから話を聞いて、涼くんのことなら『そんな先生の誘いなんか断って構わないんだよ、自分のやりたい野球に打ち込めばいいんだよ』って、思えたのよ。

翌日すぐに教授に会って、お断りしたわ」


陶子さんは照れくさそうに笑った。


たしかにそのエピソードは似てる。


でも、陶子さんに俺の何がわかる?


俺は別に何も溜め込んでなんかいない。


そんな話をされても、一度閉じた俺の心はすぐには開かなかった。




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