記憶のかけら
本
気が付くと村田さんはいなかった。台所からの水音や掃除機の音。洗濯機の音も聞こえないので、もう帰ったのだろう。
探すことはしない。普通の野良の“通い猫”と違って、勝手に人の生活に立ち入るタチの悪い奴だから。
それでも追い返せないのは、そういう事も含める面倒な事に労力をかける気力もないから。だと、自分の事を分かっている。それに、なんだかんだあっても、私の苦手なところをカバーしてくれる点があるので、ついつい彼に流されてしまうのだ。
その一つが買い物。生きるのに必要かな食料品を、最低限買うまでにら何とか一人で行ける。だが嗜好品は、どうしても……。
なのでお茶類は、彼が買ってきてくれる事でなんとか飲めているのだ。
「さて、そのお茶でも飲もうかな」