記憶のかけら
 いつからいたのか、村田さんが背後に立っていたのだ。
 よくよく思い出せば“音読”していたのは村田さんの声だった。画集のようなその絵本に見入っていた為に、気が付かなかったのだ。おまけに文章を読みその声は、まさに私の中のイメージ通りだったから。
「何か?」
 何の気もないような笑顔。でも何となく、何かがありそうな気がして、私は何も言い返すことなく絵本に目を戻し、そのまま閉じてしまう。続きを聞きたくなかった。というよりも、続きを変えられてしまいそうたからだ。さっきのように。
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