記憶のかけら

 カーテンの隙間からもれる光を頼りに、部屋から出る。廊下の窓にはカーテンがないからか、目が痛むくらい明るかった。天気がいいのだろう。なかなかない、梅雨の合間の晴れ。
 目をこすりながらゆっくりと階段を下りていると、慌ただしい電話の音が鳴り響いてきた。

 たどり着くまでだいぶ時間があったのに、ベルは鳴り止まなかった。
 仕方がない、出るか。「はい、池田です」
「村田です。まだ寝ていたんですか? もう正午過ぎですよ」
 優しくて、ニセモノくさい声。
 彼の声は何度聞いても慣れないし、どうしても素直に応えることが出来ない。
「只今留守にしております。ご用の方は後日かけ直してください」
「起きていたんですね、それはすみません。仕事先がお宅の近くなので帰りにでも寄っていきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
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