記憶のかけら
 台所から、水音に混じって歌が聞こえてきた。『私の愛しい猫さんよ、私を信じておくれ』
 どこかで聞いた事のあるような、昔歌った事があるような歌だ。
『君なしでは、私の心はしぼむ』
 でもどこか、違っているような気もする。
 何だったろうと、思いを馳せながら窓に目をやると、見慣れた植木達が目に入ってくる。
 小さな木達。手入れする人がいなくなったからか、葉っぱさえつけてくれなくなった。今では何の木なのかさえ分からない。もしかしたら、教えて貰ってなかったのかもしれない。植物が好きな祖父が買い集め、いつのまにか100種を越えたと聞いているから。
「サギ草だけなら、咲けば分かるかも」
 それは、祖父がいなくなり、代わりに私が住むことが決まった時に咲いていた花。その名の通り白鷺みたいだろうと、父が教えてくれた花。きれいな乳白色の、小さな花。
 今はもう、亡き主を偲んでかひっそりと隠れてしまっている。
「私じゃだめってことなの!?」
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