死発列車
「……………………お父さん………!」


自分の目を疑った…。そこには今朝家で寝ていた父が3両目に乗っているのだ……

あまりの信じられない光景に美倉は倒れ込んだ。
「…おいっ!大丈夫か…!?」大原が駆け寄ってきた。
「……あたし……もう生きられない………」
「……なっ…!?……何言いだすんだよ…!?」
「………お父さんが……お父さんが………」
美倉が3両目の方へ指差す。
「……えっ……!?」
大原が隣りの車両を覗くが、もう父の姿は隣りの車両からこっちへ叫ぶ人たちで見えなくなっていた。
「………あたし……どうしたらいいの……?」
「…………」大原が黙る。

父の姿をこんなにも頭の中で何度も思い巡らしたのは初めてかもしれない…。


小さい頃 大雨の後だから川へ近づくなと言われていたのに、私は空は晴れているから大丈夫だと思って川の傍の花を摘んでいたら一気に茶色い水に飲み込まれた…。偶然近くの上から垂れていた枝につかまることができたが、枝が切れるか自分の手が離れるのは確実だった…。自分が親の言うことを聞かなかった罰だと思ってもう諦めかけていた…しかしそれを見た父は川へ飛び込んで助けてくれた…自分が身代わりとなって川に流された……

一日待っても父は帰ってこなかった……
やはり何かあった………捜索願いを出し父が見つかって生きていることを願った……

食事も喉を通らず、母も私のせいでこのようになったということをとやかく責めることはなかった……

………
……………
…………………トゥルルルル………
電話が鳴る……
「……只今 美倉 彰宏(みくら あきひろ)様を保護致しました…!まだ生きておられましたが重傷でしたので先程病院で治療し、今 目を覚まされました…!」
「…よかった…!!夫は……夫は無事なんですね…!?」
「………はい…!しかし、大変申し上げにくいのですが…………」
「…えっ!?」

それは突然だった…。当たり所が悪かったのかまだ原因は分からなかった…父は私たちの名前どころか、自分の名前も思い出せない記憶喪失となってしまった……。『一過性全健忘』と医師に診断された……。

それからというものの父は入退院を繰り返し、徐々に記憶は戻ってきた……。
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