死発列車
彼はそう言うとそのまま座席で横になった。
ただただ彼を見ているだけだった。

斑目 汰一(まだらめ たいち)。一見筋肉質で強そうに見えるが、地味な服装、時々見せる彼の素の部分は見た目とは裏腹だった。ただ強いところを見せたいという気持ちは相変わらずで、先程は たとえ感電したとしてもその痛さにだって打ち勝つと考えた上での行動だった。親元を離れ今彼女と同棲しているが、その関係も危ぶまれている…。
結局今日は既に先に向かっている彼女の実家へ挨拶へ行くためこの電車に乗ったのだが、今のような関係で大丈夫なのだろうかと考えていた…。
しかしもはや助けを呼べない不安と、列車が逆走しているため彼女の実家へ着くのが遅れてしまう気持ちの方が複雑に頭をめぐった。

そんな彼に胸ぐらを掴まれた麻倉 博美(あさくら ひろみ)は、名前が女の子らしく おどおどしてるが学生時代はまわりからかなり信頼されていた。学級委員だってやったこてがある。しかしそんな面影は高校に入学してから覆された。そして喧嘩にも勝てずいつしか子供向けのヒーローになりたいとも思い始めていた。卒業後は幕張メッセで行われるヒーローもののイベントに毎年行っている。のちに車内で話した会話では、今日もそのイベントへ早めに向かって、最前席を奪いに行くと語っていた。しかしこんな状況ではもはやそれどころではない。麻倉は何か自分が役に立つ時がないか、乗客を助けられないか 頃合いを見計らっている…が、自分の命が危うくなる危険だけはおかせなかった。胸ぐらを掴まれたことで腰を抜かし、依然 車内でおどおどしているままである。

感電した斑目に銀の手すりに触れさせた中越 脩哉(なかごえ しゅうや)は、しっとりとした性格。人によっては冷たいと言われることもあれば、優しくて温かいと言われることもある。彼が周囲に及ぼす影響は良いときも悪いときも五分であった。何事にも冷静でクールな彼は、このゲームが始まってから動揺を見せない。ある意味謎に包まれた人物でもある。服装からみて今日は仕事の出張だったかと思われる。


アナウンスが静かな車内に響いた。
「…ご覧の通り、ドアや非常口をこじ開けようと致しますと強い電気が流れてしまいます…。ぜひご注意ください……」
その言葉に身体が冷気で覆われた感じがした。
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