死発列車
「んあ~っ!兄ちゃ~ん、お隣り開いてるぅ~?ヒヒッ…」
酒に酔ったオヤジが入ってきた。

いきなり呼びかけられて困ったが、

「えぇ…まぁ、どうぞ…」


今になってみればなぜ許したのか後悔している。

「兄ちゃ~ん!……サンキューぅ~!!へへへっ…」

オヤジがどすっと座った。




酒くせぇ…




ラインは思っていることを昔から言えない性格。
そのために、学校ではいつもやっかいな当番を押し付けられていたりもした。それは今でも変わらず、職場でもよく昼食のパシリにされている。



「…兄ちゃ~ん、名前なんて言うのぉ?」
答えずに寝たふりでもしようか迷ったが、結局…

「はぁ…。相沢一といいます…」
大きなため息をつきながら言った。

「おう!?ライン?おもしろい名前だなぁ~!!おじさんはねぇ…」


別に尋ねていないのだが、オヤジは勝手に自己紹介をしはじめた。


この人の名前は江口 嘉信(えぐち よしのぶ)といい、普通のサラリーマンだ。年は34歳だが、白髪の生え具合からして相当この人は苦労しているのだろう。今着ているベージュのロングコートは離婚した妻からもらったらしい。いつの間にかラインはそんな江口の話に聴き入っていた。


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