桃陽記
それは親愛の名
闇は一段暗く沈んだかと思うと徐々に白み始め、やがて森の中は熱を含む柔らかで強い光で満ちてくる。
みずみずしい草の中で目覚めた少女は、静謐な空気から覚醒した森を見渡し、その小さな身体を目一杯まで広げて伸びをした。
昨晩はどうやら歩き疲れ眠ってしまったらしい。
「………ごはん」
しばらくぼうっと辺りを眺めてからそう呟くと、少女はムクリと起き上がり、寝る直前まで歩いていた進行方向へと歩き出した。
何処かでスポゥケィが喚いているらしい。
遠くで甲高い声が何やら言っているのが聞こえて来たが、何を言っているのかまではわからなかった。