桃陽記
ぐぅ…



音をあげた自分の腹に気が付くと、少女はまた彼を見てころころと笑った。



「…腹が減っているのか」


躊躇いなく頷いた少女に、彼は頭上で実るみずみずしい木の実を一掴みもいで目下の少女に与える。
大きな手の内に収まっていた木の実は小さな少女の両手からボロボロとこぼれ苔の上に転がる。

少女は両手いっぱいにその赤い木の実を持ちながら足元に沢山落ちたそれを眺めると、再び彼に笑顔を向け礼を言い、その場に座るとその実を食べ始めた。



彼はそんな少女をただ眺める。

静かな時間が戻って来る。





「………」



小さな羽音は、いつの間にか戻って来ては苔の上に転がる木の実を少女と一緒に啄み始めた。

自分に警戒を見せずに木の実を食べる小鳥の姿にまた少女はころころと笑う。






悪い者なわけがない、と、彼はその眼差しを和らげた。




「おまえは、どうしてここに来たんだ?」
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