桃陽記
その様子を肯定と受けた少女は、続けて問う。


「一緒にいたら、あなた、怒られる?」

「ん…………そう、だな」


拙い少女の問いに少し頷く。
すると、少女は弾かれたように立ち上がり、驚いて飛び立った小鳥達に謝りながら食べ残した木の実をその汚れたボロのような服の裾に入れてよたよたと歩き出した。


「行く…か」

「うん」


背を向けて歩いていた少女はそこで少し振り返る。


「怒られちゃったら、駄目だもんね!ご飯、ありがとう!!」


そう言って、双眸を崩すと、またよたよたと歩き、草花の枝葉の向こうに消えた。

「………」


再び小鳥と静寂の戻ってきた陽光の中で、頭に浮かぶのは、ふいに訪れた晴れ間のような少女の事ばかり。

非力そうな、普通のヒトよりも色んなものを持ち得ない少女だった。
あまり凶暴な種のいないこの辺りから、洗礼の終点たるこの森の王が生きる王聖地(ノウセイチ)に辿り着こうと言っても、森で洗礼を受けている者に対して森は好意的ではない。


あのような小さな者、まず生きて王の下に行く事は叶わないだろう。

もう一度、あの笑顔を思い出す。

思えば、この日だまりにも似た温もりを残す少女だったと、差し込む光に黒い爪の光る手の平をかざす。
今までの自分になかった迷いに、戸惑う自分がいた。
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