桃陽記


「それとも望んで巡るか」



確率としては後者である可能性はかなり低いが、迷い込んだにしてはその少女には『怖れ』が見えなかった。
少女は散々四方八方に首を巡らせた後、ようやく自身の頭上の存在に気付き目を丸くした。






そして、すぐにその大きな双眸を細め、溢れるように笑いかけたのだ。



「こんばんわっ
高いとこ…いい気持ち?」




今まで自分に向けられたことのない、あまりにあどけないその笑顔に思わず見惚れ、弾むような舌足らずな声に、老いた人面梟は我に返った。


あんな無邪気な笑顔を見たのは、一体何百年ぶりか……





「見てみるかね?
ヒトの子よ」






そう問えば少女はさらに嬉しそうに笑みをこぼした。










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