桃陽記
わからない?



今度は彼が内心で首を傾げる番だった。



どんなに教育の行き届かないような貧困の中に産まれた人の子であっても親さえいれば必ず名は付けられるものだ。




物心つく前に名を呼ぶ親を亡くしたにしては、この娘はどうにも無知で無垢過ぎる。

なにより、独りで生きる子供の目ではない。











「自身の名がわからぬと…?」






少女は「うん」と頷いて、そして、ふにゃりと笑う。



「起きたらね、おはなばたけにいてね、ここに来たの」





その笑顔は、可憐で、愛らしく、大切な"何か"をなくしていた。
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