桃陽記
今、自分と話す事が出来る。

それだけが嬉しい。

そんな、少女の笑顔。


その笑顔には過去への温もりはなく、

未来への希望もなく、

歪な程に空虚で、

どうしようもなく可愛らしかった。






人は、

計算高く、利己的で、見苦しいほどに執念深い。


この少女もまた、自らも何かの欲に生き、そして周りの人間達のエゴや欲に翻弄され、忘れ去らなければ自身の"ココロ"を保っていられなかったのかもしれない。

この状態の精神を"正常に保てている"のかどうかは、別として。







急に黙り込んだ彼の羽毛の中からまた辺りを見渡すと、どうやらもう地上は近いようだった。
地に足を着き一度折り畳まれたその羽が今度は少女を地上に降ろすために動くと、少女は素直にそれに従い、丁寧に地に帰された。




「…恐れを知らぬヒトの子よ」
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