涙は煌く虹の如く
「………」
先に進むか否か少し考える丈也だったが引き返すのは何だか格好悪い。
「よしっ…!」
先を見据えた丈也はまた歩き出した。
「カツカツカツ…」
丈也が再び歩き出して2,3分が経過した頃、
「おっ……!」
パッと視界が明るくなった。
鬱蒼と茂っていた木々が減ってきたからだ。
しかしながら森を突き抜けたわけではなかった。

「やった……!」
思わず丈也の口からも安堵の言葉が漏れる。
そう、目指す沼が見えてきたのだ。
「やった…!ハハッ…!やった…!」
「カツッカツッ…!」 
心なしか足音も弾んでいるようだ。
沼は森のほぼ中心部に位置しており、まるでクレーターのような状態で存在していた。
向こう岸まで2、30m程だろうか。
少し楕円がかってはいるが綺麗な円形をしている。
道は沼の淵の辺りで切れており、向こう岸へは泳いで行くか左右の木々を掻き分けて行くかの方法しかなく、ほとんどの人はここで進行を止めるといった具合だった。

「うんうん……」
淵へ向かって歩きながら頷く丈也。
「ここだ…ここにダンボールを持ち込んで…」
どうやら完全に昔を思い出したらしい。
子供の頃美久、賢や島の子供たちと秘密基地を作ったまさにその場所にようやく辿り着いた。
「………」
しばらくその場に佇み昔を思い出し、懐かしむ丈也。
とはいってもわずか5年前の出来事でしかなかったのだが、その思い出さえも遥か遠くに飛ばしてしまう時間の流れの速さ、残酷さにはしゃぎながらも戦慄を丈也は感じた。
「カタッ……」
沼の淵までやって来た丈也。
そっと覗き込む。
水はエメラルドグリーンと水色の中間のような色をしており、一見透明度が低いように感じるが、
「おっ…!?」
水面を注意して見るとフナと思しき川魚が群れを成して泳いでいるのが丸わかりで実は澄んだ水であった。
その不思議さが丈也をワクワクさせた。

すると、
「ポチャッ…!」
向こう岸の方で魚が跳ねたにしては大きすぎる音がした。
「………!?」
驚いた丈也は身を硬くしながら視線を向こう岸へと合わせた。
信じ難い光景が丈也の目に映った。
謎の音がした湖面を見つめる丈也。
「……!?」
驚きで声も出なかった。




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