涙は煌く虹の如く
もちろん”煩わしい”気持ちが大部分であるのは自覚していたのだが、それ以外の理由もあったのだ。
ただ、見つけ出せない。
いや、見つけ出そうとせずにそのエネルギーを勉強にぶつけているのか?

「スタッ…」
丈也は一度思考を打ち切り身支度に没頭した。
「サッ……」
そして、黒のイラスト入りTシャツにブラックジーンズという出で立ちに着替えると思ったよりも軽やかな足取りで離れを後にした。
「ザッ…」
靴を履き、一歩外に出た丈也。
「ジリジリジリジリ……」
すると太陽のギラギラした陽射しが丈也の肌を刺激した。
「わっ…!」
あまりのムンとした暑さに仰け反らんばかりになった。
上下を黒い服で整えたことに失敗を感じ、着替えに戻ろうとしたが、
「サァーーーッ……」
その瞬間風が丈也を覆った。
「やぁ……!」
心地良さを覚えた彼は着替えずに散策を続けることにした。
「サクッ、サクッ、サクッ…」
風を一杯に受けながら歩いている丈也。
気分が高まってきたのか、足取りも自然と軽やかになる。
民家の通りを抜けると海が近づいてくる。

心なしか風の質が変わったように感じる。
「サワサワサワサワ…」
適度に潮気を含んだ風が丈也の髪を撫ぜる。
「スゥ…フゥ……」
決して東京では味わえない磯の香りが丈也の鼻腔を刺激する。
人によっては好きではない匂いなのかもしれないが、何故か丈也はこの匂いが大好きだった。
(魚にでも生まれた方が良かった…のかな…?)
「ピャア、ピャア…」
ふいにカモメの鳴き声が聞こえてきた。
視線をそちらへ移すと海へ向けて数羽のカモメが群れを成して飛んでいる。
(カモメもイイなぁ…!空飛べて、海に入れてイイことずくめだ…!)
「んぁーっ……!」
他の動物になりたいという誰しもが一度はそう夢想するであろうことを思いながら丈也はゆっくりと自然溢れるU島の周りを見渡し大きく伸びをした。
「サクッ、サクッ、サクッ…」
丈也の歩みのペースは落ちない。
この間よりもはるかに早い時間で土手に着いた。
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