涙は煌く虹の如く
「フゥ………」
ここまで来ると潮の匂いは姿を消し、代わって草いきれの匂いが漂ってくる。
丈也はこの草いきれの匂いが好きではなかった。
どことなく自分の持っている青臭さを増幅させるような感じがするからだ。
しかしながら、それは丈也の主観であって自然に罪があるわけではない。
今の丈也にとってはその嫌悪すべき匂いすらも愛でるべき自然の対象となっていた。
「クッ……!」
立ち止まり、もう一度伸びをする丈也。
思い切って外に出てみて良かった、と楽しみを噛み締めていた。

ところが、
「………!?」
眼前にそんな丈也の穏やかな気持ちを壊すような光景が飛び込んできた。
(あれは……?)
土手の下、つまり川縁の所に中学生と思しき少年少女の集団がいた。
数えてみると少年が五人に少女が三人。
部活動帰りのようで全員ジャージ姿で少年のものらしい自転車が側に置いてある。
更に凝視する丈也。
すると、八人に囲まれているような状態で中心にもう一人いることを認めた。
「アァッ……!」
驚きが思わず声に出てしまった。
それは薄水色のワンピースを着た少女…
囲まれているのが美久だったからだ。

「……!?」
困惑が丈也を支配するがすぐに眼前で何が起こってるのかを理解した。
美久がイジメられている現場に丈也は遭遇してしまったのだ。
そのことを裏付けるかのように美久の可愛らしいワンピースの所々に泥のような黒っぽいシミがついているのが遠目からでも判別できたし、明らかに彼女は泣いているように見える。

「クソッタレがっ…!」
八人という大人数で一人の少女を寄って集ってイジメる構図、そしてイジメられているのが従妹であるという事実。
丈也は身体中の血が煮え滾り、逆流するかのような怒りを覚え、
「ダダッ……!!」
その感情を全く隠そうともせずに、いやむしろそれを強く印象付けんばかりの勢いで土手を駆け下り出した。
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