涙は煌く虹の如く
時間は少し戻る。

「ダダダッ……!」
丈也は猛スピードで走り出していた。
走っていることも手伝っていたが、怒りで周りが良く見えなかった。
「美久っ…!」
小突かれている可哀想な美久の姿と、大勢で虐げている非道な集団しか視界に入らなかった。
(ガァッ……!)
思い切り怒りを叫びたい衝動に駆られる丈也。
だが、この距離で叫んでしまっては連中に悟られてただでさえ不利な状況がもっと酷くなってしまう。
(クソッ……!)
一刻も早く美久のもとへ辿り着きたいのだが、なかなか距離が縮まらないもどかしさに顔が硬直する丈也だった。
「ダダダッ……!!」
無言で走る丈也。
「ポタッ…ポタッ…」
額から汗がしとどに流れ落ちる。
流れる汗は無造作に彼の頬や目をつたうが、そんなことはお構いなしだった。
「ハァ、ハァ……!」
ようやく300mくらいまで距離が縮まってきたことを丈也は実感した。
しかし動体視力が上手く機能していないのか、もしくは暑さで判断力が鈍っているか、はたまた美久が虐げられていることに対する怒りで冷静な考えができなかったのか、それは定かではないが、眼前に広がる場面は驚くほどぼやけており、
(本当に俺の目…?)
と自問せずにはいられなかった。
(んなこたぁどうでもいいかっ…!)
丈也はスピードを上げた。
「ウオオオオオオオォッ…!」
同時に集団に自分の存在を気づかせるためにわざと、大げさに叫んだ。

「ヘッ……!?」
驚く集団。
「何だや…?」
「誰だ、アイツ…!?」
口々にわめき出す少年少女たち。
「ムッ…!」
一番目立つ雰囲気を放つ少年。
(アイツか…?)
丈也は彼が集団のリーダーであると直感した。
そして一直線に少年に向かうと、
「ダゴォッ……」
身体を丸くして体当たりを仕掛けた。
「ドッサァァァアッ…!」
「ウゴッ…!」
もんどりうって倒れるリーダー。
したたかに背中を砂利に打ちつけたらしく悶絶したまま起き上がれない。

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