涙は煌く虹の如く
「プツプツプツ…」
波の飛沫が更に細かい粒子のようになって丈也の顔に当たる。
それが何だか今の彼にとってはとても心地良いものであった。
「おっ…!?」
「ピャア、ピャア……」
丈也は驚いた。
いつの間にか何十羽ものカモメが船を取り囲んでいたからだ。
どうやらエサにありつけると思ったらしく丈也の周りを旋回している。
「ピャア、ピャア……」
エサをねだる動物の仕草というのは可愛いものだ。
しかし、丈也はカモメに分け与えられるような食料を持ち合わせていなかった。
「………」
再び客室に目をやるとカモメのエサを200円で売っている旨のポスターが見えた。
が、丈也は客室に決して入ろうとはしなかった。

「ゴメンな…後から来る客からもらってくれよ…」
そうカモメに詫びると大きく伸びをして深呼吸を2・3度行った。
「ピャア、ピャア……」
カモメの鳴き声がどことなく寂しそうな感じに聞こえたのは丈也の錯覚だったのだろうか…? 

「ズザァーーーーーッ」
目指すU島が見えてきた。
「パッ…!」
丈也はさりげなく身を乗り出した。
「ズザァーーーーーッ」
船は心なしか逸る丈也の気持ちに呼応するかのようにスピードを上げていた。
「ズゥゥゥゥゥ…」
やがて連絡船はゆっくりとスピードを落とし、船着場に無事着いた。

「んだがらや~っ!」
「ちげぇって!そんなごとねぇって…」
主婦連が我が物顔で騒々しく船を降りていく。
「グラッ…!」
彼女たちがドスドスと音を立てて歩く度に船が揺れた。
「………」
その様子を丈也は何か観たくもないのにテレビをただボンヤリ眺めているような感じで見つめていた。

「ツカツカ……」
不意に足音が聞こえた。
丈也はハッとして足音の方を見やるとそこには彼を監視していた船員が立っていた。
「お客さん、降りてもらわないと困るんだけど…」
若干東北弁のイントネーションを残した極めて事務的な口調で話しかけてきた。
「ごめんなさい…」
謝りながらもその決して良いとは言えない態度に丈也は嫌悪を覚えた。
そして急にこの船員に仕返しをしてやりたい衝動がふつと湧き上がってきた。
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