涙は煌く虹の如く
「ガラッ…!」
逆に恐怖心は消え去っていた。
思い切り引き戸を開けると、
「美久……!?」
信じられないことに美久が立っていた。

オレンジと白のストライプのパジャマが暗闇に映え、奇妙なコントラストと同時に可愛らしさを丈也は感じた。
しかしながら、美久の表情は凍りついていた。
目には涙が溜まって、赤くなっている。

「美久…どうした…?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、
「ドサッ…」
美久が丈也の胸へ飛び込んできた。
「お…おい…!?」
予期せぬ展開にドギマギする丈也。
しかし、
「グッ…ウッ…」
美久の嗚咽が漏れてきた。
「美久…?落ち着いて…一体何があったの…?」
美久を気遣って優しい口調で丈也は尋ねた。

「………してる………」
声が小さ過ぎて聞こえてこない。
「何……?」
丈也が何も応えることができずにいることを察したのだろう、美久は声を振り絞った。
「母…ちゃんが……汚いこと……してる…」
「えっ……!?」
およそすぐには理解できない言葉であった。
それでも美久の動揺は尋常ではない。
確かめる必要はあるし、このまま母屋に美久を返すことはできない。

「わかった。美久はこの部屋にいな。冷蔵庫にジュースもあるし…飲んで落ち着きなよ…眠かったら寝てもいいから…」
「コクッ……」
美久は無言で頷いた。

「スッ…スッ…」
母屋の中を抜き足差し足で歩き回る丈也。
何だか自分が良くないことをしているような気持ちになり、冷や汗が頬を伝った。
「………!」
灯りが漏れている部屋がある。
久子の部屋だ。
丈也はそっと中の様子を窺った。
< 36 / 79 >

この作品をシェア

pagetop