涙は煌く虹の如く
「………!」
そこには見たこともない光景があった。
「ハァッ、ハァッ……」
全裸で汗まみれの久子が身体を波打たせている。
「………」
すっかり固まってしまった丈也。
「グッ…クッ…」
野太い声も聞こえる。
久子の上にいたのは副市長村杉であった。
村杉のすっかり歳を感じさせるでっぷりとした体躯が激しく久子を責めていた。

「グッ…クッ…」
「ハァッ、ハァッ……」
それは人間の交わりというよりは獣の貪り合いを思わせる状況だった。
少なくとも丈也にはそう見えた。
「……………」
何をどう反芻して、何をどう理解して、何をどう納得すれば良いかが全然わからずに丈也の頭の中を何か鉛の玉のようなものが駆け巡っていた。
ただ一つわかったことはいみじくも美久が言ったように決して綺麗な営みには見えないことだった。

「うぷっ…」
突然嘔吐感が丈也を襲った。
「ぐっ…!」
「ダダダッ…!」
いても立ってもいられなくなった丈也は大急ぎで外へ飛び出した。

「ン……!?」
「ハッ……!?」
久子も村杉もようやく侵入者に気づいたようだ。
「また美久か…?」
「いんや、もしかしたら丈也かもしんねぇ…」
「丈也…?あの東京のクソガキか…」
「クソガキは余計だよ、ちょっと生意気なだけなんだ…」
「見境いなしめ…」
「ウフフ……」
獣なのは営みだけではないようであった。

「ぐぶっ…げぇっ…!」
海斗家を大急ぎで出てきた丈也は角の電柱の辺りで堪えきれなくなり何度も吐いた。
「げふっ…ぐっ…!」
丈也はようやく久子が自分が離れに篭ることを喜んだ真の理由を悟った。
そして、
(大人って…!)
と嫌悪感が噴出してくるのを抑えることができなかった。

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