涙は煌く虹の如く
更に一週間の時間が流れた。
丈也がU島へやって来て3週間になっていた。
丈也にとってこの3週間というのは非常にゆったりとした空間にいるような気もしたし、一方ではとても性急な気分で過ごしたような気もした。
いずれにしても東京にいたら味わえなかったであろう経験の中で彼の中でいくつかの意識の変化が起きているようであった。

「ブツブツブツ……」
すっかり自分の部屋と化した海斗家の離れで英語の参考書と格闘している丈也。
まず、当初の目的として漠然と持っていた”受験勉強”を黙々とこなすようになった。
毎日平均して10時間以上勉強している。
時間ばかりではない。
質の方も日を追う毎に高まり、どの教科の問題集も何周か回している状態であり、数学に至っては3冊目の問題集に突入していた。

丈也は自分でもどうしてこんなに勉強がはかどり、身になっているのか不思議だった。
そして、海斗家の人間と完全に一線を画すようになった。
特に久子に対して抱く生理的嫌悪感はいかんともし難かった。
なので、当初頼んでいた洗濯も断って衣類は自分で手洗いをして干していた。

「………」
時折久子とすれ違ったりすることもあったが、目を合わせることができない。
偶然目が合うと彼女の目がどことなく自分を欲しているように見えて仕方がなかった。
そんなことを思わせてしまう久子の態度にも、そして何よりそんなことを感じてしまう自分自身の内面を丈也は嫌悪する。


賢も完全に丈也に近づかなくなっていた。
別に嫌っているわけではないだろうことは確信していたが、子供はとても敏感だ。
もはや”子供”ではなくなりつつある丈也を察知して距離を置くことにしたのだろう。
軽い寂しさを覚えたが、丈也にとってはある意味好都合だった。

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