涙は煌く虹の如く
「スクッ…!」 
丈也は驚いて立ち上がると、
「ダダダッ…!」
竿を放り出し林へ向かって走り出した。
「ダダッ、ダダッ…!」
丈也は林の中を走り続けた。
「ズルッ…ダダダッ…!」
水たまりが出来てぬかるんだ道に足を取られながらも走った。

「ズルッ…」
「あっ…!」
「バッシャーン…!」
勢いがつき過ぎたのだろう、転倒してしまった。

「クッ…!」
「スクッ、ダダッ…!」
しかし、痛みも羞恥心も今の丈也にはなかった。
再び走り出す。
(……確かに聞こえたんだ!空耳なんかじゃない…!)
走りながら丈也は自分を動かす原動力になっている跳音のことについて考えていた。
(…いる…絶対に…)

丈也の向かっている先は…あの秘密基地の場所。
沼であった。
「ダダッ…ズルッ…ダダダッ…!」
何度も何度もぬかるみに足を取られる丈也。
だが、転倒することなく進むのを止めない。
「ハァッ!ハァッ…!」
だんだん息を吸い込むのにも吐き出すのにも余計な力が入りだしてきた。
雨は相変わらず叩きつけるような降りで、林の中で生い茂る木の枝をワンクッションに置くため、雨粒がより大きくなって丈也の身体に落ちてきている。

「………」
丈也の頭の中では様々な感情が渦巻いていた。
何のために今自分は走っているのだろう…?
何を自分は求めているのだろう…?
そもそも何のために自分は生まれ、何処へ向かおうとしているのだろう…?
人間として生まれてきて物心がついてくると誰しもが思い抱く疑問が浮かんでは消え、また浮かんできた。

(…この先に…あるっていうのか…?)
「ザァァァァァァァァ…」
雨は答えてくれない。
木々も答えてはくれない。
(いいんだよ、見つけてみせるからよ!)
「ダダッ、ダダッ…!」
草臥れかけてた丈也の足に再び勢いが戻った。
「ハァッ…ハッ…」
呼気も落ち着きをみせる。

急に視界が開けてきた。
沼が目に飛び込んできたからだ。
雨が降っていても沼の蒼さは鮮烈さを保っている。
「………!」
そして、更に鮮烈さを保っているものが丈也の瞳に映り込んだ。
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