涙は煌く虹の如く
次の日のこと。

「ドンッ、ドンッ、カッカカッ…」
威勢良く和太鼓が鳴り響いている。
「ハァ~ッ………♪」
和太鼓に圧倒されながらも古ぼけたスピーカーからは地元の民謡が流れている。
「ガヤガヤガヤガヤ……」
やぐらの周りでは揃いの水色の浴衣に身を包んだ住民たちが老若男女問わず、民謡の節に合わせて楽しそうに、それでいてどこか義務的に踊っていた。

今日はU島の盆踊り大会。
場所は島一番の広場である中学校の校庭だった。
地方によって盆踊り大会の開催時期は違うが、U島はかなり特殊で盆明け20日過ぎに行われるのが常らしい。
「キャハッ…キャハハ…!」  
踊りの輪の更に外側では町内会の有志が行っている出店に群がる子供たちの姿があった。
決してテキ屋がやるようなこなれた店構えをしているわけでもなかったが、いつの時代でも出店は子供たちのオアシスなのであろう。
慣れない手つきで有志が作った焼きそばを美味しそうに頬張る姿や水ヨーヨーに没頭する姿が随所で見られる。

「ハハッ…ハッハッハッ…!」
またその輪とは別にはしゃいでいる中学生の集団も散見できる。
彼らはこういったイベントになると子供とも大人とも違う雰囲気を醸し出している。
本当に人生のわずかな期間だけ発散されるオーラのようなものである。
それが”思春期”というものなのだろうか。
とにかく皆が揃いの浴衣を着ることにことごとく反発するような形で私服姿の中学生が跋扈していた。

「………」
そのどの群れとも一線を画した形で一人鉄棒の辺りで佇んでいる少年がいた。
丈也だった。
丈也はどこか心ここにあらずといった表情で盆踊り大会の情景を眺めていた。
もちろん浴衣など着ていない。
いつものTシャツにジーンズ姿だ。

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