涙は煌く虹の如く
「ズカズカズカズカ……!」
「キャハハハッ……」
丈也の前を小学生の集団が走って行った。
その中には賢もいた。
しかし、彼は丈也を一瞥しただけで声をかけることもなく通り過ぎた。
丈也は賢がいたことを知っていたが一瞥すらしなかった。

(何でこうなっちまったんだろうな…?)
賢のみならずそこにいた島民の誰一人として丈也に声をかけようとしなかったのである。
河原で美久を助けた時のケンカを見ていた者がいたらしく、尾ヒレがついて噂になったようだ。
曰く、『よそ者が島民を虐めた』と。

「………」
あくまで丈也の想像に過ぎないのだがどうやら湾曲して噂を流した張本人は村杉副市長のようだ。
彼は本気で丈也を気に入らないようで、盆踊り大会に顔こそ見せたものの丈也を認めるとすぐに帰ってしまった。
久子も来ていなかったのでおそらくは歪んだ逢瀬を楽しんでいるのだろう。

「ケッ…!」
丈也は鉄棒に蹴りを入れた。
蹴りを入れた真の理由は別なところにあったようだが…
「………」
丈也は怒りを鎮めようとして再び盆踊り風景に視線を移した。

「ドンッ、ドンッ、カッカカッ…」
「ハァ~ッ………♪」
宴は時間が経つにつれてますます盛り上がっているように見える。
「クスッ………」
自然と丈也の表情に笑みが出ていた。
考えてみれば自分が招かれざる客であるということは別に島民たちのせいではない。
一部の心ない”大人”の策略に過ぎないのだ。
それに今の自分には「受験」という命題が横たわっている。

「ハァ……」
そう思うことで不思議と気持ちが落ち着いてきたように感じる丈也だった。
「ヘヘッ…」
気持ちが落ち着くと大胆な行動を取りたくなる。
「グイッ、ブゥン…!」
丈也は突然鉄棒を掴んで鮮やかな逆上がりをした。

「ヒュウ…!」
予想よりも綺麗に決まったので調子づいてもう一度逆上がりをしようとした時、 
「バァッ…!」
「ワッ……!」
突然目の前に見慣れない少女が現れたので、彼は仰け反った。
「アハハハ、ゴメンなぁ…!」
いや、見覚えはあった。
眩しいオレンジ色の浴衣に身を包んだ少女は河原で美久を苛めていたグループの中の一人だった。

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