涙は煌く虹の如く
「君は……」
丈也はそう言うのが精一杯だった。
あまりに不意のことで細かい思考能力がちっとも働かない。
そのことで余計に苛立ってしまう。

「ンー…覚えていてくれてるようだけっど……」
丈也の前で身体を左右に振りながら更におどけた調子で少女が呟く。
「サッ……」
無意識のうちにやぐらの方角から向きを変える丈也。
明らかに少女を避ける素振りだった。
「何で君がここにいるんだ…?仲間はどうしたんだ…?」
「そんなごと関係ないっちゃ…」
立ち去ろうとする丈也を追い、その前に再び少女が立ちはだかる。
「な…何…だよ……?」
少女のただならない雰囲気にたじろぐ丈也。
「仲間は仲間だぁ。あっちはあっちで遊んでる。けど…オラが今遊びたいヤツは違うからやぁ…」
少女が距離を確実に縮めてくる。

「………!?」
丈也は完全に気圧されて立ちすくんでしまっていた。
「スゥ……」
明確にある意思を持って更に距離を縮める少女。
「………!?!?!?」
たじろぎながらも身を反らす丈也。

「ゴツッ……」
しかし、そこまでだった。
丈也の後ろを樫の木が妨害している。
「たっ……!」
意外な勢いで後頭部を打ったために痛みで呻く丈也。
「……!」
その隙を少女は見逃さなかった。
「ンッ……」
「グッ……!」
自らの唇を丈也の唇に重ね合わせる少女。
丈也は狼狽で頭の中が真っ白になっていた。
何が起こっているのかを冷静に判断することが出来ずに身体を硬直させるばかりであった。
< 49 / 79 >

この作品をシェア

pagetop