涙は煌く虹の如く
その考えは明らかに間違っている。
海斗家、そしてU島で生じている問題というのは丈也がやって来るずっと前からくすぶっていたものだ。
たまたま丈也という”よそ者”が来たことで表面化したに過ぎないことだ。
つまり丈也の存在は”スイッチ”ではあったかもしれないが、決して”原因”ではないのだ。
しかしながらそのような思考もできないほど丈也は打ちのめされていたようだった。

「ピクッ…!」
突然丈也が顔を上げる。
そこにはある固い意志が見える。
「帰ろう、東京へ…」
そう独りごちると丈也は部屋を整理し始めた。

数十分後。
「ジィー……」
荷造りを終えた丈也。
バッグのファスナーをゆっくりとそれでいて強めに閉めた。
「フゥフゥ……」
いつの間にか額には汗が溢れていた。
丈也は左腕でぞんざいに汗を拭った。
「クッ…!」
それでも汗が滲んでくるので苛立った丈也は乱暴に首を数度横に振った。
「っと……さて……」
掛け時計を見つめる。
何だかんだで時間が過ぎ去っていたようで針は3時半辺りを差していた。

「……とすると……」
「ジィー……」
バッグの小ポケットを開けた。
そこから手帳を取り出した。
手帳には丈也の手書きでH市行きの船の時刻表が書いてあった。
「あちゃあ…!」
ガッカリした気持ちを声に出して表す丈也。
H市行きの最終便は午後3時15分だったのだ。
「何だってこんなに早く終わっちまうんだよぉ…!」
自分の段取り不足を棚に上げて呟く。


「フゥ………」
大きなため息を一つついた。
「バタッ……」
横になる丈也。
しばらくそのまま天井を見つめていた。
「………」
ジッとしていると受験のことやU島で起きた様々な出来事が頭をもたげてくる。
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