涙は煌く虹の如く
「シャーーーッ……!」
丈也が最後に訪れた場所はやはりここだった。
自転車は思い出の森へと向かっていた。

「………」
笑顔を崩すことはなかったがどことなく神妙な顔つきになる丈也。
(いないよな…まさかね…)
美久がいるかもという淡い期待を寄せる。
(いたら…謝ろう…!)
丈也は数日前にここで起こった出来事を完全に思い出していた。
いや、正確には押し込めていたものを無理矢理引っ張り出した。
(そうだ、謝らないと…帰れないよ…)

「キィッ…」
森に入ると同時にそれまでのスピードを徐々に緩める。
「サァーーーッ…!」
自転車に乗っている丈也の身体に木漏れ日が優しく降り注ぐ。
陽の光が顔に当たる度に彼の顔は歪んだが、心地良さそうにペダルを漕いでいる。

その時だった。
「………!」
耳元にありえない音が飛び込んできた。
「キャハハハッ…!」
「そんでさぁ……」
「へぇ…」
少女と思しき声が聞こえる。
人目を憚る必要がないのでかなりの大声だ。
声の主は残念ながら美久ではなかった。
(何だ……!?)
慌てて自転車を停める丈也。
「サッ……」
息を潜めて手近な大木に隠れる。

「………!?」
丈也は事態が飲み込めない。
ゆっくりと声の方を覗き込む。
真っ直ぐ進めば沼なのだが、右に曲がるとやや小高く盛り上がっている場所がある。
数人でピクニックなどをしてランチをするのにピッタリという感じの場所だ。
そこで3人の少女が菓子を食べながら気ままにお喋りをしていた。
丈也が驚いたことにはそこでお喋りをしていた少女たちは美久をイジメていたグループのメンバーだったからだ。

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