涙は煌く虹の如く
「丈…也…どこまで聞いてたのや…?」
「………」
丈也は無言のまま怒りの表情を崩さない。
「………」
「………」
ジュンのみならず他の少女たちも黙り込んでしまった。
完全に気圧されてしまった様子で逃げることすら忘れたようだ。

「質問に答えろ…ちゃんと答えてくれたら手は出さない…」
丈也の声は怒りを押し殺したかのように低いトーンで発せられた。
有無を言わさぬ説得力に満ちている。
「こないだのことがヤラセだってことはわかった。首謀者が副市長の村杉ってことも。でもなぜ…?」
「それは…」
「ジュン…!言っちゃダメだべ…!」
「いんや、こいつマジだ…嘘言ったらオラたちみんなやられちまうぞ…」

制止を振り切ってジュンが話し出す。
「村杉は美久のことが好きなんだよぉ…」
「エッ……!?」
思ってもみない回答が返ってきて丈也も驚きを禁じえない。
「村杉は美久の母ちゃんと付き合ってっぺさ。んでも、アイツが本当に狙ってるのは美久なのよ…」
「………」
丈也の困惑をよそにジュンは続ける。
「そこに丈也、アンタが来たことで美久の関心がアンタに向かったことを村杉は面白くなかったんださね…」
「バカな…!俺は一月で帰るんだぞ…!それに…俺と美久はいとこ同士で…」
「そんなこどあのオヤジにゃ関係ないんだって…とにかくアンタに嫉妬したんだっちゃね…んだからオラたちに声をかけて盆踊りの件を仕組んだんだぁ…」
「バカな……」
丈也は胸の辺りに強い不快感を覚えた。それは村杉と久子の逢瀬を覗き見た時に感じた嘔吐感と全く同じものであった。
「村杉はどんな手使ってでもアンタのイメージ壊したかったんださ…」

「もう一つだけ答えろ…」
「ん……?」
「美久は今どこにいる…?」
「それは……」
二つ目の質問に対して何故か口ごもるジュン。  
「答えろぉっ……!」
ついに丈也の怒りが爆発した。
これまでに見せたことのない怒りの形相で吠えた。
「ヒィッ……」
ジュンたちも思わず仰け反る。
目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「答えろって言ってんだろうがぁっ……!!」
「ブワッ……」
堪え切れずに涙を落とすジュン。
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