涙は煌く虹の如く
「今日の…最終の…船で、H市に行った……」
「一人でかっ…?」
「ううん…村杉が連れてった…」
最悪の答えだった。
もうH市への連絡船は終わっている。

「アァッ…!」
どうすることもできないもどかしさに丈也は身悶えた。
「バタッ…」
そのまま頭を抱えて突っ伏した。
「……どうすれば…いい…?美久を……俺は…どうすれば……どうしたら美久を…」
しばらくの間意味不明な独り言を繰り返していた丈也だったが、
「スクッ…!ダダッ…!」
突然勢い良く立ち上がると自転車へ向かって走り出した。   

「ガシッ…!」
「……!?」
その丈也の腕を掴んで止めたのはジュンだった。
「待ってや…今からH市さ行こうってが…?」
「どけよ…!」
ジュンを振り切る丈也。
「行かねぇでけろ…!村杉の話に乗ったのはマジだけど、オラ…丈也のことが好きなのは…」
「そういうことじゃないんだよっ…!」
「ドカッ…!」 
再び丈也を止めようとしたジュンを突き飛ばした。
「バタッ…!」
草原に倒れるジュン。

「ダダダッ…!」
後ろを振り返ることをせずに丈也は去って行った。
「ウゥッ……」
取り残されたジュンは嗚咽するばかりであった。

「シャーーーーーッ……!」
恐ろしいスピードで丈也の自転車が走っている。
「アァァァァァァッ……!!」
風を切る音に混じって丈也の絶叫がこだました。

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