涙は煌く虹の如く
しばらくそのままの姿勢で佇んでいた丈也だったが、諦めたような表情を浮かべてポケットから何かを取り出した。
手の中にあるのはタバコ。
「カシュッ!」
Gパンのポケットからジッポーライターを出すと慣れた手つきでタバコに火を点けた。
「フゥー…!」
丈也が息を吐くと紫煙が青空の中に混じった。

さっきの行動の矛盾点を思い出すと何故か膝が疼いた。
「よいしょ…」
丈也は上半身を起こした。
「フゥーッ…!」
そしてさらにタバコを吸い込み、紫煙を吐き出した。
その姿はどこか溜まっているストレスをタバコの煙と共に出している、そんな風に見えた。

「………」
今度は川のせせらぎを眺めている丈也。
「ピチャッ…!」
何かが川面を跳ねた。
「おっ…!」
丈也は驚きの目で川面を見つめた。
はっきりと判断はできなかったが20cm程の魚が小集団を作って餌を求めているようだった。
鮒なのか?それとも岩魚なのか?

「ゴロン…」
丈也は再び仰向けになって青空を見つめながらの喫煙に没頭し出した。
(母さん、母さんは『U島みたいな環境だったら存分に集中して勉強できるわね!』って喜んで僕を送り出してくれたけど…僕がこうしてタバコ吸ってる姿を見たら母さんはどう思うんだろう…?)
何気に身体の向きを右に傾けた。
さっきは気づかなかったけど丈也が座っている辺りはシロツメクサの群生場所だった。
(そして僕が何の面白さも感じずに今を生きていると知ったら母さんは…父さんはどんな顔をするだろう…?)

「ガサガサッ……」
何とはなしに四つ葉のクローバーを探す丈也。
しかし、すぐに集中力が切れてしまう。
「もう…!」
また仰向けになった。
(でも、母さんも父さんもとっくに気づいているけどシカトしているだけなのかもね…)
そして脈絡もなく先般の想像の続きを行った。

「おわっ…!?」

ふと土手の上の方を見ると中年女性が一人、訝しい表情で丈也を凝視していた。

その表情からは明らかに”見たことのない少年がタバコを吸っている”ことに対する嫌悪感が滲み出ていた。

「ケッ…!」
丈也は舌打ちで嫌悪感を表した。
その嫌悪感とは”未成年の喫煙”よりも”よそ者”の部分に中年女性が重きを置いていることが丸わかりだったからだ。
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