涙は煌く虹の如く
第7章 ふたり
すっかり辺りが暗くなったU島。
もはや人一人歩いていない状況であった。
「シャーーーーーッ……!」
その静寂を切り裂いたのは丈也が漕ぐ自転車の音。
「………」
(ここに来てから走っているか自転車漕いでるかだけのような気がするなぁ…)
そんなことをうっすらと考えながら自転車は進む。
そうでもして気を紛らわせないと狂ってしまいそうなほど丈也の心の中のパレットは混濁していた。
「ハァッ、ハァッ……!」
ペダルを踏む丈也の呼吸が一際荒くなった。
海辺特有の潮気を含んだ風が丈也の身体を包み込む。

間もなく港に辿り着いた。
港といっても離島のこと、大きい岸壁があるわけでもない。
連絡船の着き場が目立つ場所にあるのみ。
あとは漁業用の小型船舶が4艘、暗くて正確な数は把握できなかったが釣り船用のモーターボートが数艘あるのみだ。

丈也はまず望みがないとはわかっていても連絡船の時刻表を見た。
しかし、あまりにも暗くて見えない。
「カシュッ…!」
持っていたライターを点ける。
「………」
連絡船の最終時刻はやはり午後3時15分だった。
連絡船がダメとなると漁船かモーターボートで行くしかない。
だが、丈也がそれらを操縦できる由もなく、更に船着場には今誰もいない。
おそらくここが漁へ出る船で賑わい出すのは早くても朝4時台であろう。

「クソッ…!」
絶望的な状態と言わざるを得なかった。
「どうするっ…?ちきしょう…!こんな時…俺…どうするっ…!?」
暗がりの中で同じ所を行ったり来たりしながら丈也は何度も同じ言葉を繰り返していた。
「泳ぐか…?」
少しでも可能性のあることを口にしてみる。
U島からH市までの距離は船で約1時間。
丈也は泳げるが無事に着く可能性は極めて低い。

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