涙は煌く虹の如く
「ジリッ…」
Gパンのポケットに突っ込んだままの左手にも力がこもる。
「キイィッ…!」
車がちょうど船着場の辺りで停止した。
「………!」
丈也は飛び上がらんばかりに喜んだ。
また一つ確信へ近付いてきたからであった。
「バタム…バタッ…」
運転席と助手席からほぼ同時に人が降りた。
「ブルルルルルルルルル……」
車はアイドリング状態である。
ヘッドライトも点いたままだ。
そのヘッドライトの前に二人が立つ。

目を凝らす丈也。
二人の男だった。
一人はスーツ姿、一人はTシャツに作業ズボン姿だとおぼろげながら判別できた。
(やった……!)
丈也の予想は完全に当たったようだ。
身を潜めながらも嬉しさで身体をブルブルと震わせていた。
それでも意識は左手に集中しているようで決して左手が外に出ることはなかった。

「まったく…めんどくせぇっちゃなぁ…!」
丈也の存在など知る由もない作業ズボンの男が港中に響くような大声でぼやいた。
「しゃあねぇべよ…明日は定例があんだからよぉ…」
今度はスーツ姿の男の声が聞こえた。
「んだったらわざわざH市になんか行かねくたってイイべよぉ…!ここでやったらイイんだぁ…!」
「そこはおめぇ、体面ってものがあるっちゃ…?まずあんまぼやくなや…後で謝礼に色付けるように先生さ頼んでやっからよぉ…」
「おぉ、あんがとなぁ!それにしても政治屋さんっつうのは羨ましい仕事だよなぁ…あんな小娘一人でも簡単にできちまうんだからよぉ…クックックッ…」
「ヘヘヘヘヘヘヘヘ…」
およそ夜の閑散とした港で交わす会話とは思えないほど下品なやり取りが続く。
「………!」
先程の嬉しさはどこへやら、今度は怒りで全身を震わせている丈也がいた。

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