涙は煌く虹の如く
「……な…て、め……?」
訳がわからない様子で言葉にならない声を上げる秘書を尻目に、
「村杉はどこにいる…?答えろ…!」
情報を探り出そうとする丈也。
「てめ…ぇ…海斗の家に来てたガキかい…!?こんなことして…」
「答えろっつってんだよぉっ…!」
「ジャキッ…!」
苛立つ丈也はGパンの左ポケットから何かを取り出した。
それは刃渡り15センチ程にもなりそうな飛び出しナイフだった。
「ゲッ……!」
暗闇の中でも妖しく光を放つ凶器に秘書が黙った。

「答えろぉっ…!答えてくれりゃ何もしねぇよ…!頼む…!」
「………」
押し黙る秘書。
「答えろぉっ…!」
「ビュンッ…!」
「ガッキィィィィッ…!」
ナイフは秘書の顔横をかすめてアスファルトの地面に突き立った。
「ヒッ…!」
秘書が恐怖の叫びを漏らす。
「答えろぉっ…!」
丈也の叫びに泣きの色が帯びてくる。
「ポタッ……」
幾粒かの涙が秘書の顔に当たる。

「わ、わかっ…た…わかったから……」
丈也の本気に秘書も観念したようだ。
「H駅前通りにあるシーサイドホテルにいっから…」
「部屋番号は…?」
「4…12号室…」
「ありがとうございます…」
丈也は心からの感謝を示した。
「申し訳ないですが…連絡されると困るんで…」
そう言うと丈也は、
「ブンッ…!」
「ボゴォッ…!」
「ブエッ…!」
ナイフの柄の部分で思い切り秘書のみぞおち辺りを殴った。
「グブゥ…」
痛みで悶絶する秘書。
「すいません…!」
「ズルズルズル…」
その秘書を引きずり人目のつかない所、船着場の待合室の裏まで運んだ。

数分後。
「タッタッタッ…」
丈也が小走りで戻ってきた。
秘書のスーツを着ている。
「フゥ………」
船着場に着いた丈也は無言で息を整え、
「ギュッギュ…」
まだ火種が残っていた秘書の吸殻を足で踏み消した。

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