23時の情熱
一歩、踏み出す。

コツ、とヒールの音が響く。


玄さんがパソコンから顔を上げ、こっちを振り返った。


「……瞳子?!
何してんねんこんな時間に」

驚いた顔で近づいてくる。

「ちょっと……忘れ物。一人なの?」
咄嗟に嘘が出た。

作り笑いで歩み寄ると、急に顔を近づけて来た。すると、眉間に皺を寄せたかと思うとサッと顔を引いた。



「嘘つけ。酒臭い」



「……あ」


「また呑んでたんか?」


「呑んだって言うか……少し」
苦笑いしながらコンビニの袋を差し出した。

「お、コーヒー!サンキュー」


玄さんと私しかいない広いフロアーは、誰もいない奥の部分は照明が消され玄さんの辺りだけが明るく照らされている。


「ここらへんで終わるかな。続きはまた来週」

デスクの上を片付け始める。



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