23時の情熱
大型連休に入り、大学を卒業して初めて実家に帰った。


父は大喜びだったが、母は「ちゃんと食べてるの?」
「会社では周りとうまくやってる?」
と質問攻めに辟易した。


「久しぶりにうちに帰って来たんだからちょっとはゆっくりさせてよ……」





騒がしい家の中と違い、外は田舎独特の静かな風景が広がっている。

夕暮れの河の土手を犬の散歩がてら、一人歩いた。


高校まではよくこうして犬を連れてこの長い土手を歩いた。







玄さんの事を思い出していた。


今頃は大阪の家族の元でゆっくり連休を満喫しているだろう。



寂しかったけど悲しくはなかった。
彼の家族の事を思うと、辛かったけど苛立ちはなかった。





玄さんの心を知ってしまったから。





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