23時の情熱
駅が近づく。



西口―――――。




植え込みの前の古びたベンチに、俯いて足元に目を落として座る玄さんが見えた。



人ごみの中私を見つけ、ネクタイを緩めながら立ち上がる。





―――私があげたネクタイ。


お互いにゆっくりと歩み寄る。





「……ゴメンな、急に呼び出して」


「………ううん」

俯いてしまう。玄さんの顔を見れなかった。





「……少し歩くか」


黙ったまま、玄さんについて歩き出す。



薄暗くなった駅周辺は帰路につく人で賑わいを見せていた。

雑踏から離れ、高架橋の下に差し掛かったところで玄さんが口を開いた。




「……この前はすまんかった。」


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