23時の情熱
見るからに軽そうな、クチの巧い今時の男。


「今村さんが彼氏いないなんて嘘に決まってるでしょ?ウザがられてるのよ、あんた」
総務の先輩、邑田みどりが横からクチを挟む。


「みどり先輩、ホントにいないんですってば」

「たまにいつもと違う方向から地下鉄降りて会社来るときあるでしょ?あれってお泊まりして、彼氏んちから通勤したんじゃないのぉ〜?」




――ブッ。

部屋の隅で吉永課長と話していた玄さんがビールを吹き出すのが聴こえた。




――――見られてた。




一瞬、顔に出てしまったかも知れない。
そう思ったが、気を取り直して言った。

「友達んとこ泊まったんですよ、それ。もー先輩勘繰り過ぎぃ」


「えぇーっ、そうかなぁ。なぁーんか違う気がするんだけどなぁ……」



鋭い。さすが先輩。


背中を一筋、冷たいものが流れるのがわかった。

視界の隅では、吉永課長に笑われながら吹き出したビールを拭く玄さんが見えた。

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