23時の情熱
シャワーで汗を流し、ラブホテルの安っぽいボディーソープの匂いに包まれながらバスルームを出た時、ベッドから玄さんの小さな声が聴こえた。



思わず耳をすませ、その小さな声に聞き入った。




「……そやねん。飲み過ぎて頭痛いわ。…あぁ、今から帰る。」


―――奥さんと話している。


私がシャワーをしている間に、慌てて奥さんにかけたのだろう。夕べは飲み過ぎて帰れなかったとでも言い訳しているのか。



「ん?明後日?…せやな、10時頃の便やったと思うけど」


出張の話。
お土産でも頼まれたのかも知れない。


「……あぁ、わかっとる。真っ直ぐそっち行くわ。…ん。あぁ、ほな空港着いたら電話するわ」




話し声は聞こえなくなった。電話は終わったらしい。

バスローブ一枚でベッドルームの入り口に立ちすくむ。濡れた髪からは水滴が幾つも落ち、私の足元に小さな水溜まりを作っていた。

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