23時の情熱
「なんや、もう出たんか」
「………うん」
濡れ髪を拭きながら平静を保とうとした。
目を合わせなかった。
玄さんの視線を感じた。
「……瞳子」
「ん?」
「……聴こえてたんか。今の」
「………うん、……奥さん大丈夫だった?気づかれてない?」
たいして気にもしていない、という風を装ったが、顔は引きつっていたかもしれない。
「ああ。なんも言うてなかった。大丈夫やろ」
気まずそうに言った彼の目は、イタズラのバレた子供が親に怒られないかと顔色を窺う目だった。
「……そっか、よかった」
心にもない事を口にした。
「お土産持って行ってあげたら喜ぶよ、きっと」
皮肉に聴こえただろうか。
他に言う言葉が見つからず、嫌味に聴こえない様に心がけたつもりだったが、玄さんは黙りこんだ。