23時の情熱
いつものように定時で会社を出たところで、携帯が鳴り出した。





―――玄さんからの着信。



「…もしもし」


「仕事終わったか?」



いつになく明るい声。

「……終わったよ。今会社出たとこ」


「そか。お疲れさん。俺も今帰る支度しとった」




明日の夜には玄さんが日本に帰って来る。
やっぱり嬉しさは隠せない。口元は思わず微笑んでいる。



「気をつけて帰って来てね」


「……なんやヤケにしおらしいな。そんなに寂しかったんか?」

携帯の向こうでもニヤけた表情が目に浮かぶ。




「………寂しいに決まってるじゃない」



少しの沈黙。玄さんが戸惑っているのが伝わる。

「今度はヤケに素直やな。
……土産買うてきてやるさかい、もうちょっと我慢しといてな。瞳子」



優しい口調。


不意に、泣きそうになった。
玄さんの声を聴いて、寂しさと愛しさが募る。



< 180 / 183 >

この作品をシェア

pagetop