恋の行方


「いやっ!」

玄関へと歩き出していた来栖さんの背中に抱きついた。
まるで引き寄せられるように。
自然と動く身体に逆らわずにそうしていた。

「行かないでっ!私の側にいて!」

その言葉もまた、極々自然に出た言葉。
それは私自身でさえ否定出来ない来栖さんへの気持ち。

「…やっと言った」

背中に抱きついていた私は来栖さんの顔は見えなかったけど、声が柔らかくなってた。

「なんて…本当は不安で不安で仕方なかった。本当になんとも思われてなかったらどうしようって」

そう言いながら、私を引き離して来栖さんは振り返った。
嬉しそうに微笑む来栖さんを見て、沸々と怒りが湧いてくる。

「来栖さんなんて…来栖さんなんて大っ嫌いっ!!」
「えっ!?」

それはもう思いっきり。大嫌いを強調して力強く叫んでいた。
睨みつけるように見上げると、来栖さんはかなりオロオロとうろたえてた。
そんな来栖さんは初めて見た。
来栖さんでもうろたえたりするんだなって一瞬脳裏を過ぎっていったけど、今はそれに感心するよりも、来栖さんに文句を言う方が最優先だった。

「なんでそんなに意地悪なの!?お兄ちゃんはもっと優しいのに!お兄ちゃんなら…っん!!」


戸惑い顔だった来栖さんは私が捲し立てるように喋り始めた途端に冷静さを取り戻し、今にも誰かを凍りつかせてしまうんじゃないかって思うほど冷たい眼差しにすり替えて、私の言葉を遮る為に口を塞いだ。


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