恋の行方


来栖さんの掌によって塞がれた私の口は「んんっ!んん~」と言葉にならない批難の声を上げていたけれど、その冷たい眼差しによって瞬時に声を上げる事を止めた。


「俺は尚輝じゃない。来栖圭って言うんだ」

口を塞いだまま、膝を曲げて私の目線に合わせる来栖さん。

「それわかってる?」

その瞳は月の引力のような力を発して波を引き寄せるように私を惹き付けた。
そして惹き付けられた私はもうその瞳から逃げられない。

来栖さんの瞳に蕩けてしまいそうな錯覚に陥いりながら、流れるようにコクンと首を縦に振って頷いた。

「お兄ちゃんでもない。見てるだけなんて出来ないよ?わかってる?」

完全にみとれていた私の耳に届いたのは、胸焼けするほどの蜜言を囁くような甘い声。はっと我に返った私は恥ずかしさのあまり一瞬目を泳がせたけれど、それでも頷く時には来栖さんをしっかりと見据えてた。

「俺の事、どう思ってるの」

それに気をよくしたのか、フワリと微笑んだ来栖さんが、私の口から手を離しながら聞いてきた。

だけどその優しい笑顔からでも、これは絶対命令であると伝わってくるのだから、来栖さんという人は恐ろしい。
私が真っ先に嫌いだと口走った事を根に持ってる…よね。間違いなく…


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