恋の行方


「そこまでだっ!」

私が目を閉じた数秒後。
リビングに乱入してきたお兄ちゃんの怒鳴り声が部屋に木霊した。

反射的に目を開いた私は来栖さんの形の良い少し薄めの唇が、もう触れてしまいそうなほど迫っていて、それでなくても早鐘のようだった心臓が、間違いなく壊れるんじゃないかって思うぐらいの早さで打ち鳴らされる。

「…邪魔しないでくれる」
「あのなぁ、俺の存在忘れてんじゃねぇよ」

そんな間近に来栖さんの顔があるのに耐えられず、咄嗟に1mほど距離を置いた私を引き寄せながら、心底不機嫌そうにお兄ちゃんを睨みつける来栖さん。

お兄ちゃんは完全に呆れ返ったような顔をしてる。

「別に忘れてたわけじゃないけどね」

そんな事には興味ないとでも言いたげな口調でチラリとお兄ちゃんに視線を送り、すぐに向き直って、甘い瞳で私を見つめる。


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