君に届け



訳わかんない…
これが、真っ先に俺の頭に浮かんだことだった。



幸村を振りほどくことも出来ず、ただそのまま突っ立っていた。



「幸村…?」



抱き付いたまま離れない幸村に、俺は声をかける。



「大丈夫…か?」



返事はない。
けど、幸村の手の力がさっきよりも強くなった。



「池澤…」



「どうした…?怖い夢でも見たか?」



この状況で抱き付かれる理由がわからなかった俺は、とりあえず聞いてみた。



「…嫌。」



「ん?」



「思い出したくない…」



幸村の言葉を聞いて、俺はそれ以上は思い出させない方がいいと判断した。



「そっか…思い出したくないなら、無理に話さなくていいから。」



きっと、さっき話してたお母さんに関することだと思う。



何の記憶かは知らない。



俺は幸村の担任でもない部外者だし、幸村の家庭についても何も知らない。



でも…知らないなりに、出来ることはあると思う。



俺はそっと、幸村の頭に手を置いた。






< 112 / 282 >

この作品をシェア

pagetop