君に届け
お母さん
あの人は…
きっと家にはいないし。
「ちょっと待って…」
あたしを玄関で引き止め、一旦部屋に戻った憲介は、上着を手にして帰って来た。
「夜だし…冷えるかも知れないから、これ着て。」
「ありがと…」
素直に応じ、上着を着て外に出る。
外に出てみて、着てよかったと思う。
今は4月なのに、少し肌寒い気がするし。
「…春なのに、寒いな。」
「うん…」
憲介が貸してくれた上着をギュッと握りしめる。
「幸…穂波、大丈夫?」
『幸村』と言いかけて慌てて訂正した憲介。
「うん…あ、のさ?」
「ん?」
今までの習慣をすぐに変えるのは難しい。
だからあたしは提案した。
「無理に下の名前で呼ばなくても…よくない?」